それからほんのすぐのこと、エリスは大いに混乱していた。
なぜなら今彼女の前には、床に跪き、自分の右足の傷を丁寧に消毒している、アレクシスの姿があるからである。
(いったい、これはどういう状況なの……?)
――今から少し前、アレクシスの誤解を解かねばと意気込むエリスを待っていたのは、アレクシスのこんな一言だった。
「傷の手当ては俺がする。お前たちは全員下がれ」と。
侍女から受け取った『エリスの怪我一覧』の紙に目を通すなり、アレクシスはそう言ったのだ。
当然その場はざわついた。
皇子であるアレクシスが他人の傷の治療をするなど、戦場でもなければ決して有り得ないことだからだ。
とはいえ、侍女たちはアレクシスのエリスに対する恋心にとっくの前から気付いていたので、
「殿下がそのようなことをせずとも」
「手当てならばわたくしたちでもできますのに」
「ですが殿下のご命令ならば従うほかありませんわ」
と、見事な掛け合いを見せ一斉に退室していった。
そうして今現在、エリスはアレクシスに命じられるがままベッドに腰かけ、右足を差し出し、傷の手当てを受けている次第である。