リアムと共に、アデルとシーラを救助し終えてすぐのこと。
突然アレクシスが姿を現したと思ったら、次の瞬間にはリアムの腕を捻り上げていた。
それも、烈火のごとく形相で――。
エリスはそんなアレクシスの姿を目の当たりにし、瞬時に悟った。
ああ、この人は誤解している、と。
(確かに殿下が現れる直前、リアム様はわたしの肩を抱いていた。でもあれは、他の兵からわたしの姿を隠そうとしてくれてのことだった。お互いに、まったく他意はなかったのに……)
きっとアレクシスは自分のことを、身持ちの軽い女だと思ったはずだ。
誰にでも肌を許すようなふしだらな女だと、軽蔑したはず。
だって彼は以前言っていたのだから。
初夜のことを謝られた際、『君が"乙女ではない"と誤解していた。それであんなことをした』と。
エリスはその意味がわからないほど馬鹿ではなかったし、ユリウスとのことで、嫌というほど思い知らされていた。
男というのは、妻にどこまでも貞淑さを求めるものである、と。
もちろん、エリス自身もそうあるべきだと思うし、そうあろうと思っている。
ユリウスの婚約者であったときも、今も、操を破ったことはない。そんなことを考えたこともない。
けれど、一度疑われたら取り返しがつかないのだ。
ましてアレクシスは大の女性嫌い。そんな彼に「誤解だ」と言ったって、簡単に信じてくれるとは思えない。
それは、馬車の中でのアレクシスの冷たい態度からしても明らかだ。
(わたしが何を言おうとしても、殿下は『話なら後で聞く』と仰るばかりで、取り付く島もなかった。せっかく信頼を築けていたと思ったのに……これでは……)
エリスは、胸に広がる暗澹たる思いに、どうにかなってしまいそうだった。
よもや彼女は、アレクシスが自分を愛していて、それ故に、リアムとの仲に嫉妬しているなどという考えには、全く思い当たらなかった。
川岸でアレクシスが見せた怒りも、リアムへの牽制も、全ては自分に対する警告だと信じて疑わなかったし、アレクシスがリアムに残した捨て台詞『オリビアを妃にするつもりはない』という言葉など、誤解されたと思うショックのあまり、全く聞こえていなかった。
馬車の中や、宮に着いてから部屋に戻るまでの間、終始腕に抱き抱えられていたことについては、『罰を与えるまでは決して逃がさない』という意思の表れであると、盛大に勘違いしていた。
とはいえ、アレクシスがかつてないほどに殺気立っていたのは事実であり、エリスが誤解してしまうのも致し方ないことだった。