その後、アレクシスと共にエメラルド宮に戻ったエリスは、医者が到着するまでの間に浴室で身体を温めていた。

 一旦湯に浸かった後、侍女たちによって髪を洗われ、裸のまま全身をくまなくチェックされる。
 傷の種類、位置、大きさを、ひとつ残らず丁寧に確認された。

 というのも、祭りの影響で医師の到着が遅れることを予想したアレクシスが、侍女たちにこう命じたからだ。

「擦り傷一つ見逃すな。もし悪化でもしようものなら、お前たちは一人残らず全員首だ」と。

 当然その言葉は、エリスを心配する気持ちから出た言葉だったが、これを全く逆の意味――つまり、『お前の浅はかな行動のせいで使用人が責めを負うことになるんだぞ』と解釈したエリスは、入浴中にも関わらず、終始顔が青ざめていた。

(どうしましょう。殿下のご機嫌を損ねてしまった。きっと殿下は、わたしが自分との約束を破り、別の男性と過ごすような女だと誤解している。わたしのせいで、侍女たちが首になるなんてことになったら……)

 エリスは、土手に現れたときのアレクシスの剣幕や、馬車の中での冷たい横顔を思い出し、あまりの不安に身を震わせた。