(いったい、これはどういうことだ?)
アレクシスは混乱した。
つまり、子供を助けようとして飛び込んだ婦人というのはエリスのことだったのだろう――が、そもそも、どうしてエリスがこのような場所にいるのだろうか。
安全な広場の中にいるはずの彼女が、なぜ川に飛び込むような危険なことをしているのか。
――それに……。
(リアム・ルクレール……どうして、お前がそこにいる?)
なぜお前が、彼女の隣に立っている?
そんなに優しそうな顔をして――なぜ、彼女に触れている? なぜお前が、エリスの肩を抱いているんだ……?
茫然と立ち竦むアレクシスの視線の先で、リアムがエリスの耳元でそっと何かを囁いた。
それに答えるように、エリスの唇が動く。「そんな……いけません、リアム様」と。
「……ッ!」
声は聞こえなかった。けれど、確かにエリスの唇は「リアム」と――そう動いていた。
(ハッ……、「リアム」だと?)
刹那、アレクシスの中に沸き上がったのは猛烈な怒りだった。
嫉妬、憤怒、焦燥――そういったものがアレクシスの中に渦巻いて、全ての理性を奪っていった。
アレクシスは無理やり兵たちを押しのけリアムの背後に立つと、一瞬のうちにリアムの腕を捻り上げる。
「お前、いったい誰の許可を得て、俺の妃に触れている?」
そう低い声で威嚇した。
するとリアムは痛みに顔を歪ませて背後を振り返り――次の瞬間には、驚きに目を見開く。
「殿下……?」と呆気にとられたように呟いて、更に遅れて、「……妃?」と疑問を零す。