『妹さんは栗色の髪と瞳、水色のドレスを着ていて、身長は百二十センチ弱。桃色の風船を持っている……で、間違いない?』
『間違いない。風船の代金を払ってる間に、いなくなったから』
『なら、風船を目印に探してもらった方が早いかもしれないわね。――大丈夫、ちゃんと見つかるわ』
『……うん』
エリスは本部へ向かう間、少年――名をアデルといった――から話を聞いていた。
まずは妹シーラの特徴やはぐれた際の状況を。
その後、どうして子供だけでこんなところにいるのかを、慎重な声で尋ねた。両親は一緒ではないのかと。
するとアデルは、時折言葉を詰まらせながら語った。
彼の家は商家で、帝都へは父親の仕事の都合で訪れていること。
だが母親は幼い弟の世話のため、ランデルに残っており、ここには父親と妹しかいないこと。
またその父親も、今朝から商談のために出掛けていて不在であり、お祭りへは妹と二人だけで来ていること――そして最後に、小さな声でこう付け加えた。
『父さんからは、宿を出ちゃ駄目って言われてたんだ。仕事から戻るのを待ってろって。でも待ちきれなくて……。少しならいいだろうって……すぐに戻ればわからないって……使用人の目を盗んで、出てきたんだ。……だからもしシーラに何かあったら、全部……全部、俺のせいなんだ』
まさかこんなことになるとは思っていなかったのだろう。
意思の強そうな褐色の瞳を後悔に滲ませて、拳を握りしめるアデル。
その横顔に、エリスは心臓が締め付けられるような心地がした。
もし自分が彼の立場だったとして、偶然、運悪く兄妹を迷子にしてしまうならいざ知らず、それが自分の浅はかな行動が招いた結果だとしたら、後悔してもしきれない。
それに、今まさに迷子になっているシーラは、相当な不安を抱えているはずだ。
(そう言えば昔、シオンと一緒に迷子になったことがあったわね。……そうよ。あれは確かランデル王国で……。だからわたし、必死に言葉を覚えたんだったわ)