◇


 それから約一時間後、エリスは帝都中央広場の北門付近で、アレクシスを待っていた。
 第二皇子(クロヴィス)による民衆へのスピーチも終わり、帝国祭開始の宣言が成された今、辺りはお祭りムード一色である。

 街全体が花々で彩られ、道にも広場にも沢山の出店が立ち並ぶ。
 右を見れば、サンドウィッチやソーセージ、ラムネやエール、シロップ漬けの果物などの飲食店が。
 左を見れば、花やアクセサリー、絵画やアンティークの食器まで、ありとあらゆるお店が並んでいた。

 広場中央の噴水では、子供たちがきゃあきゃあと無邪気に水遊びをしたり、シャボン玉を飛ばしたり。
 行き交う人々は皆笑顔で、貴族も平民も、家族連れもカップルも、別け隔てなく祭りを楽しむその様子を見ていると、それだけで幸せな気分になってくる。


(マリアンヌ様に聞いてはいたけれど、本当にお店がたくさん。これ、一日で回れるのかしら)

 ――何を隠そう、エリスはお祭りというものが初めてだった。

 祖国でもこういった祭りはあったのだが、それはあくまで平民が楽しむもので、まして貴族令嬢が参加するなど言語道断――という文化であったため、一度も楽しんだことがないのである。

(確か、三日目の夜には花火が打ち上げられるって言ってたわよね。宮のテラスから見えるかしら)

 エリスはそんなことを考えて、ひとり顔を綻ばせる。

 ――すると、そんなときだった。
 エリスが、迷子らしき少年を見つけたのは。