土曜日。
デートでもなんでもないのに、オシャレしちゃうのは私だけかなっ…⁉︎
あれっぷの良さを語るだけ。そうだよ…。
私はもう意識なんてしてないよ。稚隼のこと。
だって、あんなにクールでかっこよかったのに…実はアイドルオタクだったなんて…。ショック。
「ま、行きますか!」
私はそんな気持ちを振り払って、稚隼の元へむかった。
「お、おはよう。稚隼」
「ん、はよ」
こんなぶっきらぼうなのに…裏では推し活してるなんて、誰が思う?ふふふ。ニヤけてきちゃうな。
「何ニヤけてんの」
無表情で指摘され、バッと頬をおさえる。
「えっ、ニヤけてないもん… ⁉︎なんでも、ない」
「まぁいいや。どっか行きたい店とかある?なんか食いながら話そうぜ」
「私、どこでもいいよ」
私のひとつだけいいところ、苦手な食べ物がひとつもないんだ‼︎
アレルギーもなし。
「じゃ、じゃあ…俺の行きたいところでいい?」
「うん…?」
なぜか歯切れ悪く言う稚隼に着いていった先は…
「ぱ、パンケーキ屋さん⁉︎」
「そんなに驚くかよ。俺が甘いもの苦手なのに、唯一パンケーキ好きだってこと、バカにしたいのか?」
「ち、違う、違う。パンケーキ、おいしくていいよね‼︎」
まだムスッとしたままの稚隼だけど、そのままベルがついたドアを開ける。
「いらっしゃいませ〜!」
店員さんの声と同時に、甘い香りがただよってくる。
「いい香り〜」
席に座ることができて、注文したパンケーキが運ばれてくると、私以上に稚隼は目を輝かせていた。
「うまそっ、いただきます」
「いただきます」
甘いもの苦手なのに、唯一パンケーキが好きなんだね。面白い。
その後、沈黙が気まずくて、思わず言ってしまった。
「稚隼って好きな人、いるの?」
「は?」
やってしまったー…‼︎
案の定、こちらを怪訝そうな表情で見つめて、パンケーキを頬張っていた。
「な、なんでもない!あれっぷの良さを語るんだよね!なんであっぷるとぐれーぷっていう名前なんだろうね!」
早口で口走ってしまったけれど、なんとか話題を逸らすことができた。
「それ知らないなんて、ファン失格だぞ。あっぷるは赤とりんごが好きだから。ぐれーぷはあっぷるがつけた名前らしいんだけど、ぶどうってなんかカッコよくて、ぐれーぷにぴったり!ってことらしいな」
よ、よかった。
ドヤ顔で話してくれてるってことは、話題をそらせたってことだね。
それから、あれっぷの良さをさんざん語った後…(というか、ほとんど稚隼が話してたんだけどね)
「俺、これから塾なんだ。また明日」
「う、うん!また明日ね」
待ち合わせ場所を決め、別れた。
な、なんでこんなにドキドキしてるんだろう。
一緒に推し活するだけなのにね。
色々な感情が湧き上がってくるけど…、その感情をおしころして、私は家に帰った。