その後、なぜか流れでカラオケに行くことになった。

 私はもちろん遠慮してたし、たぶん碧斗くんも行きたくなかった感じだけど、人懐っこい北条くんがどうしてもっていうから流れでそうなってしまった。

 碧斗くんは最初は恥ずかしがってたけど、なんだかんだみんなと楽しそうに歌う姿は、とても人間味があってホッとした。


 そうだ。昨日のこと、ちゃんとお礼言わないとね。


 碧斗くんに話しかけるタイミングをうかがってたけど、みんな騒ぎまくってるからなかなか話しずらい。

 すると、突然碧斗くんが顔を近づけてきた。


「相川、ちょっと部屋出ようぜ」

「ええ!?」


 耳元で感じる碧斗くんの声に動揺し、変な声が出てしまう。



 私と碧斗くんは二人で部屋を抜け出してカラオケ屋の外の裏通りにやって来た。


「悪いな。さわがしい奴らで」

「そんなことないよ。私も楽しんでるから」

「そういえば、弓、大丈夫だったか?」

「え、弓?」

「昨日、ずっと気にしてたじゃん。弓が壊れてないか心配してたんだろ?」

「あ、うんうん。大丈夫、壊れてなかったよ」


 私が弓を心配してるの、気づいてたんだ。


「そっか。今日は弓持ってないから、気になってさ」

「えっと、今日は部活ないから、持ってきてないだけ」

「よかった。大会近いんだろ。調子はどう?」

「うん……まあまあ、かな」


 まあまあどころかサイアクだけど、適当に流した。

 てか、大会のことや弓道部だってことも知ってるんだ。

 なにげに名前も知ってくれてたんだよね。

 隣の席で、全然からんでなかったわりに気にしてくれてたんだなあ。


「あのね。昨日は、ホントにありがとう。ってもう一度お礼を言いたくて」

「いや、別にお礼言われるほどのことしてねーよ」


 碧斗くんは低い声でそう答える。昨日と違って穏やかな口調だ。


「しっかし、部活の練習ってあんなに遅くなるんだな」

「自主練もしてたから」

「そっか。頑張ってんだな。でもあぶねーからあんまり夜道は歩くなよ」


 目を見てるだけでなんだかドキドキしてくる。


「そんな、子供じゃないから別に……」

「あんな無防備に歩いてたら、他の男がほっとかねーだろってこと。俺だっていつも護ってやれるわけじゃねーから」


 最後の方は目をそらしながらボソッとつぶやいた碧斗くん。


 なんだろう。


 この、心の底から心配してくれてる感じ。

 学校での見た目は暗そうで地味だけど、外では明るくてやんちゃな感じ。

 そして怖そうだけど……本当は優しい碧斗くん。

 もう何がなにやら。

 とにかく私は彼のことをもっと知りたいと思った。


 その時、ふいに視線を感じて私と碧斗くんは同時に後ろを振り返った。

 すると、建物の影から部屋にいるはずの四人が顔を出していた。


「お前ら! 何やってんだ!」


 あわてふためく碧斗くん。


「いい感じじゃねえか、碧斗! 見せつけてくれるぜ!」


 茶々を入れる東堂くんたちとじゃれ合う碧斗くん。

 私は恥ずかしいやら何やらで、顔から火が出そうになっていた。