放課後。

 授業が終わって、ソッコーで席を立つ碧斗くん。

 あの見た目だと、帰宅部なのかなやっぱり。


 ……これ偏見かな。


 私は、すぐにあとを追いかけた。

 生徒たちでごった返す廊下をスタスタと歩いていく碧斗くん。

 思ったより足が速くて見うしないそうになる。

 運動神経が悪そうな見た目なのに(これも偏見)スルスルと人の波を抜けていく。



 学校の最寄り駅からほど近い繁華街。

 私は碧斗くんのあとをつけていた。

 居酒屋や、パチンコ屋が並ぶ通りをぶらぶらと歩いていく碧斗くん。


 どこに向かってるの?


 昨日の姿ならまだしも、地味で陰キャな見た目からは、絶対こんなところ歩く姿は想像できない。

 もっとこう、行くとしたら本屋とか、カードショップとか、ゲームセンターとかでしょ。

 さすがに偏見が過ぎるかな。


 私が後ろから観察していると、彼がするりと路地に入っていくのが見えた。

 商店街から一本離れた裏通り、街の死角になっているような場所だ。


 壁や空き店舗のシャッターにはスプレーで描いた落書きがびっしりだ。


 碧斗くんはその通りを進み、少しひらけた駐車場へと入っていく。


 建物の陰からのぞくと、いかにもな不良たちが四人、たむろしているのが見える。

 そして、その中心にはなんと碧斗くん。


 え……。


 背の大きい不良の一人がニタニタと笑いかけながら、碧斗くんに肩をぶつける。

 よろけて転びそうになる碧斗くん。


 え、大丈夫? 碧斗くん!


 不良たちにからまれてる!? どうしよう……。


 でも、待って。自分からここに入っていったよね!


 どういうこと? 呼び出されたのかな……。


 どんなやり取りをしているのかわからないが、様子をうかがう限りではからかわれてるようにしか見えない。

 そして次の瞬間、碧斗くんはおもむろにサイフを取り出した。


 うわー! これはカツアゲだ。間違いないよ。


 警察呼んだ方がいいよね……。


 碧斗くんはサイフからお札を何枚か取り出すと、不良たちに手渡していく。

 それを見た私はいてもたってもいられずに駆けだした。


「そんなの、ダメ!」


 気が付いたら、私は走りながら叫んでた。


「碧斗くん、大丈夫!? 逃げよう!」


 碧斗くんのそばまで行き、彼の手を握る。

 その場にいる全員があっけにとられる中、碧斗くんはポツリとつぶやく。


「相川、どうしてここに……?」


 私は棒立ちになっている碧斗くんを引っ張ろうとしたが、彼は踏ん張ってその場を動こうとしなかった。

 そのせいで私はバランスを崩してよろけてしまう。


「きゃっ」

「お、おい」


 倒れそうになった私の背中を両手で支えてくれる碧斗くん。

 彼の腕の中で私が顔をシロクロさせていると、周囲から声が上がる。


「碧斗、こいつ知り合い?」
「説明しろ。碧斗」
「あおくん、それお姫様だっこみたーい」
「……」


 周りを取り囲む男たちの言葉に違和感を感じながら、慌てて体制を立て直し碧斗くんの腕から離れる。


「相川、なんか勘違いしてるみたいだけど、こいつら俺のツレだから」


 え、えええー!?