「ヤダッ!」
怖くなった私は、弓で思いっきり男の股間を叩いた。
バシッという爽快な音と共に、悲鳴が上がる。
「イッテー! ぐあー!」
反撃したことに自分でも驚いて、手がブルブルと震え出す。
股を押さえながら飛びまわる金髪男。
今のうちに逃げようかと思ったら、男がすごい顔でこちらを睨んできた。
「何すんだテメー!」
いきおいよくせまってくる男の手。
ダメ。動けない。また反撃するなんてムリ。
私が恐怖で身をかがめると、間に誰かが割り込んできた。
えっ?
現れたのは一人の男の子。
彼がいきおいよく放った蹴りは、男の体を数メートル先まで吹き飛ばした。
まるで魔法のような衝撃。
背を向けて立っている彼は見慣れた制服を着ている。
あっ! うちの学校の生徒だ。
誰?
背は私よりあたま一つ分高く、細身だけど引き締まっているのがわかった。右耳には黒いピアスが光っている。
彼は振り返って言った。
「ケガねえか?」
耳障りの良い低音が流れる。
彼はさらさらの黒髪をかきわけながら、涼しげな表情を一切変えずに私の目を見つめてくる。
わ、カッコいい……。
こんな状況なのにキュンしてる場合じゃないんだけど思わず見惚れてしまった。
切れ長の目、その瞳は儚げで、一目見ただけでわかるほどの芯の強さが宿っている。
見たことない顔……。
先輩かな……?
その落ち着いた様子から、こういう状況に慣れているのがわかる。
彼のうすい唇がそっと開く。
「相川、あぶねえから下がってろ……」
「は、はい」
そんなセリフを飛ばす彼がクールすぎて、名前を呼ばれた違和感に気づくのが遅れた。
どうして私の名前を……?
その時、倒れていた金髪の男が立ち上がるのが見えた。
「テメー、誰だ! 俺にケンカ売ってタダですむと思ってんのか!」
金髪は蹴られた腹を押さえながら、怒りに燃えるような大声で怒鳴り散らす。
しかし、男の子は動じることなく、薄く笑うだけだった。
「やめとけよ。これ以上はケガじゃすまないぜ」
低く冷たい声。
「うっ、ぐっ……」
そんな男の子の迫力に飲まれた金髪は、「くそ、覚えてろ!」と捨て台詞を残して去っていった。