気が付くと、裏通りを歩いていた。

 しずかなところを歩きたくて足が勝手に進んでしまったっぽい。

 なんだかイケないお店ばかりがある路地を、気持ち早足で駆け抜ける。

 足が冷えるし来週くらいから下にジャージを履こうかな、なんてのんきなことを考えてたら。


 男の人がこちらに歩いてくるのが見えた。


 金髪を逆立てて、耳にはピアスをじゃらじゃら。入れ墨柄のシャツを着ている。

 まるで人を怖がらせるためとしか考えられない服装をしている。

 近づいてくるにつれて、視線を感じていた。


 なんか、見られてる? 気のせいだよね……?


 私はうつむいて目を合わせないようにしていたが、すれ違いざまに声をかけられた。


「ねーねー、君、高校生?」


 うそ。最悪。


「時間ある? なくてもいいけど」


 鼓膜を突きやぶるような不快な音。

 男はヘラヘラしながらだらしなく立っている。


 その雰囲気から、十代には見えない。


 こんな大人の男の人に話しかけられるなんて初めてで、どうしたらいいかわかんない。


「や、あの……帰るんで……」


 なんで? これが私の声?


 自分でもビックリするくらい、か(ぼそ)い声しか出なかった。

 もっと、キッパリと断りたかったのに。


 こわくて男の目を見れない。


 じゃりっ。


 私はうつむきながら立ち去ろうとした。

 しかし、「まーまー、いいじゃん」と言いながら、男は私の行く手をさえぎる。


「これ弓でしょ、キュウドウブ? カッケー、俺も弓うちてーわ。ギャハハ!」


 下品な笑い声をあげながら、私の弓を乱暴に触ってきた。


「は、離して! ください……」


 大事な弓を粗末にさわられてカッとなった私は、体をよじって弓を引き離した。


「お、なんだよ? ちょっとぐらいいいじゃん」


 男は顔を真っ赤にして、もう一度手を伸ばしてきた。