「今言ってたのは全部橙子のこと。俺は去年からずっと橙子が好きだった。ようやく言えた」

「えっ……ウソ……」

「ウソじゃねえって、いつまでも遠回しにしてちゃダメだって思って、やっぱりちゃんと伝えることにした」


 ずっとつないでいた手が、あらためてギュッと握られた。


「橙子、俺は橙子が好きだ。俺と付き合ってほしい」

「いい、の? 私なんかで」

「橙子じゃなきゃダメ。お前の全部を知りたい」

「そんな……だって、碧斗くんくらいカッコよかったら、女の子はほっとかないでしょ。ファンとか」

「ファン? なにそれどこ情報?」


 碧斗くんはそう言って腹をかかえた。


「わ、わかんないけど、碧斗くんってすごい有名人だからさ……女の子紹介されたりとかあるんじゃないの?」

「俺に紹介されるのなんて、ケンカ自慢のクソみたいなヤローばっかりだよ」

「わ、私なんか、弓道やってるただの女だよ。かわいくないし、なんもいいところないし」

「そんなことない。橙子はあの日、あの場所で唯一、俺を惹きつけた。そしてそれは今も変わらない。俺は学校でもずっと橙子だけ追いかけてる」


 そんな、ずっと遠くにいると思ってた男の子。自分とは違う世界を生きてると思ってた碧斗くんが、私なんかを見てたなんて。


「返事。聞かせて」


 私の胸の中の思いがはじけた。


「す、好き。私も、碧斗くんが、好きです」


 持たない。心臓が爆発しそうだった。


「ホントか?」

「……うん」

「もう一度言う。橙子が好きだ」

「私も碧斗くんが好き」


 碧斗くんは見たことのない満面な笑みを浮かべた。


「じゃ、じゃあ、俺と、付き合ってほしい」


 私は静かに、大きくうなずいた。


「これで、橙子とずっといっしょにいられる」


 ずっと。いっしょに……。


「うん、ずっとだよ」


 私は目に涙をたくさん浮かべながら、返事をした。

 私たちはこの日、お互いの気持ちを初めて確かめあった。