何日かすると、私が謎のイケメンと付き合ってるという噂が流れた。

 私は教室で、莉愛を問い詰める。


「莉愛ー。あんたじゃないよね」

「あたしを疑ってんの? サイアク」

「ウソ。ごめん」

「だって、”総長”姿の碧斗くんと普通に校内歩いてたんでしょ。そりゃウワサになるよ」


 先週、伊藤くんに屋上へ呼び出され、碧斗くんに連れ出されたあの日だ。

 その後、弓道場まで送ってもらったけど、いろんな人に見られてた気がする。

 さすがに目立ちまくっていたらしい。

 しかし、”総長”スタイルの碧斗くんは普段は学校に存在していない人物なので、あの幻の男子生徒はいったい誰なのかという話で持ち切りになってるようだ。


「で、どうなのよ進展は。ラインとかけっこうしてるの?」

「一応、毎日何かしらしてる」

「おー! いいじゃんいいじゃん」


 莉愛は当然食いついてくる。


「てか、あたし普段の地味な碧斗くんしか見たことないんだけど、その総長スタイルってやつと今度ツーショ撮って見せてよ」

「えー! そんなのムリ」


 その時、教室に碧斗くんが入ってきた。


 けれど、相変わらずクラスの誰も気づかない。彼は静かに教室を横切って席に着く。


 彼が噂のイケメンなんだけどなー。


 そういえばあれから、廊下で伊藤くんとすれ違っても目をそらされる。


 碧斗くんの睨みがかなり効いたらしい。



 昼休み。

 私は碧斗くんと校舎裏に来た。


『昼休み、飯食ったあと校舎裏で話そ』


 ってラインがさっききたから。

 隣にいるのになんで? って思ったけど誰かに聞かれたら気まずいからかな。

 なんだか内緒で付き合ってるカップルみたい。

 悪いことをしているみたいで、ドキドキしていた。


 校舎裏って初めて来たけどもちろん誰もいなかった。

 元”総長”である碧斗くんにこの場所はしっくりくるのかもしれない。


「なんか、変なウワサたってんな。スマン」

「別に、碧斗くんが謝ることじゃないよ」

「付き合ってるみたいになってて、迷惑だよな?」


 そんなことないよ。なんて恥ずかしくてとても言えない。


「碧斗くんの方こそ、迷惑じゃない?」

「いや、俺は別に、顔バレしてないし」

「……」

「……」


 どちらからともなく黙った私たちはどちらからともなく言葉を発した。


「あの」
「あの、あっ」


 き、気まずい。


「橙子。俺と……」


 それって、まさか。


 告白?


 待って、早いよ。


 まだ心の準備が……。


「今度、飯でもいかない?」


 あ、なんか思ってた言葉と違ったけど、私の答えは一つしかない。


「うんうん、もちろん」

「ホントか? じゃあ──」

「うん、あ、でも……」

「なに?」

「今度はバイクはなしで、歩いて行きたい、かな」

「おっけ、橙子がのぞむなら」

「いいの? てっきり、いやがられると思った」

「なんで」

「だって、走り屋でしょ」

「あのな、走り屋のことなんだと思ってんだよ。四六時中バイク乗ってるわけじゃないんだから」


 というわけで、週末にご飯に行く約束をした。

 ちょうど日曜日は部活が休みなのでよかった。