碧斗くんと手をつないで、校内を歩く。

 私を強引に連れ出した割には、まるでエスコートするように歩調を合わせてくれる。

 碧斗くんは廊下の隅で急に立ち止まった。あたりに人はいない。


「碧斗くん? ありが──」


 ムッとした表情で私の顔を見る碧斗くん。


「あいつのこと、まだ好きなのか?」

「ええ? そんなわけないじゃん」

「そうか……」

「別に……ねえ、それよりどうして下の名前で呼んだの?」


 ”俺の女”って言ったことについては、あえて触れない。


「だって……あいつにも呼ばせてんじゃん」

「それは……」

「呼んでいい? いまさらだけど」

「……いいよ。いまさらだけど」


 固い表情を崩して、目元を緩ませる碧斗くん。


「橙子。俺がどれだけ心配したか、わかってないでしょ」

「え、どういう意味? てか怒ってる?」


 いきなり下の名前を呼ばれてビクッとする。

 まだ慣れない。


「いやごめん。でも、あんなひどいこと言うやつと、なんで話してるんだろって思ったらカッとなってさ」

「まあ、それは……そうだね」

「あいつとはもう関わらないで」

「……言われなくてもそのつもり」


 なぜかホッとする碧斗くん。


「なあ、さっきの俺の態度ひいた? 俺ってヤンキーみたいかな?」

「ひくとかは別に、でもまあ、ヤンキーっちゃヤンキーだよね」

「ヤンキーって嫌い?」

「そんなことないよ」

「そっか。よかった」


 なんだか急にデレてくる碧斗くん、クールなのにこんな一面もあるんだと思うと見れたことが嬉しくなる。

「橙子。他の男にあんまりスキ見せちゃダメだって」

「別にそんなつもりはないんだけどなあ」


 和んでいたかと思えば、また氷のような笑みを浮かべる碧斗くん。


「護りたくなる」

「……?」

「なあ……連絡先教えてくんない」

「ん、うん」


 その時、平然と答えるフリをして内心は心臓が飛び出そうだった。

 だって、こんな流れ。

 もしかして私に気があるのかな、とか思わないわけないじゃん。


 連絡先を交換して、私は部活があるからわかれた。



 どうなの? これって脈有りってことでいいの?


 でも、待って。


 碧斗くん、絶対彼女とかいそうなんだけど……。

 あんなにカッコよくて、周りの友達もイケメン揃いだし、女の子とか絶対ほっとかないよね

 あーもう、絶対ギャルの女の子とかと週末に騒いでそうじゃん。

 アイメイクはバッチリ、髪は盛ってる割に意外とシンプルコーデで、週三でダンススクール通ってるからスタイルはスッキリ細めで、自分の意見はしっかり持ってて芯のある閉じない強さ。

 そんな女の子がお似合いだよ。碧斗くんには。


 ん、私はいったい誰の話をしてるんだろう?



 今日の部活は思ったとおり、的にかすりもしなかった。