「あ、そうそう」


 しばらく歩いてから、私は話題を変えた。


「碧斗くん。ミッドナイトエンジェルって知ってる?」

「えっ?」


 明らかに戸惑った様子の碧斗くん。目をそらして考え込んでいる。


「碧斗くん?」

「あー、待って。どこで聞いた? その名前」

「他の学校の男子が話してた。なに? 心当たりあるの?」

「んー、宵闇天使(ミッドナイトエンジェル)は……俺たちのチーム名」

「えー! やっぱそうなんだ、ミッドナイトエンジェルって」

「しー! 声がでけえよ! 名前出すなって」

「え、ごめん。なんで?」

「あんまり人に聞かれたくねーんだよ。俺が総長だったってことも含めて」

「ふーん、なんかあるの?」

「まー、いろいろあったんだよ。過去のことだ」

「なにそれ、わかんないよ」


 男の子ってこういうところあるよね。


「いいんだよ。わかんなくて。とにかくこの話は終わりな」


 珍しく焦ってる碧斗くん。明らかになんかあるよね。


 ま、いつか知れたらいいなって思うよ。


 その時、スマホに莉愛(りあ)からメッセージがきた。


『昨日男のバイクの後ろ乗ってたってホント!? すっごいウワサになってるよ!!!!!』


 うっわー、マジか。嫌な予感。

 それにしてもビックリマークが多いなあ、莉愛の驚いてる顔が目に浮かぶよ。



 碧斗くんといっしょに教室に入ると、みんなが私を見る目が明らかにおかしかった。


「橙子! ちょっとちょっと」


 一番に莉愛が飛んできた。彼女は碧斗くんの方をチラッとだけ見て、私の腕を握る。

 そして、私は廊下へと連れ出された。


「ねえ、莉愛? さっきのメッセージだけど──」

「橙子! 昨日、男とバイク乗ってたってホントなの?」


 なんて答えよう……。

 碧斗くんからは釘を刺されてるし、かといって莉愛にウソはつきたくない。


「てか、それがさっきの天使(あまつか)くんなの? もしかして」


 そうそう、察しがいいね。

 そこまでわかってるならと、私は昨日あったことを莉愛に説明した。

 碧斗くんには口留めされたけど、莉愛ならいいよね。


「そっか」

「あの天使(あまつか)くんが、宵闇天使(ミッドナイトエンジェル)の総長だったなんて、ヤバいよ橙子!?」

「知ってるの?」

「もちろん」


 私は族とかチームとか、そういうのにうといけど、知ってる人は知ってるみたい。


「去年の夏、大きな抗争があって警察沙汰になったって聞いたよ?」

「えっ! 警察?」

「うん、チーム同士で、抗争? があったんだって」

「抗争!?」

「それで、なんか逮捕者まで出たらしくて、総長が責任をとって身を引いたって聞いたよ」

「えー!?」


 逮捕者! そこまで!?


「そっか、そんなことがあったなんて……」


 その時、スマホにラインがきた。

 なんと、元カレの伊藤くんからだった。


 嫌な予感……。