翌日。

 私は駅のホームで電車を待っていた。


 昨日のあれってデートだったんだよね……。


 暗くなるまでたくさん話したけど、まだまだ話したりなかったなあ。

 結局、帰りは家まで送ってもらった。

 そして、去り際に彼はこう言ったんだ。


「相川、俺たちけっこう気が合うかもな」


 その言葉がずっと頭に残って、眠れなかった。


 その時、ホームにいる他校の生徒たちの声が聞こえてきた。

 少しやんちゃな感じの男子たちだ。


「聞いたか? 昨日、宵闇天使(ミッドナイトエンジェル)の元総長が駅前にいたんだって」

「らしいな。赤色の単車(バイク)の後ろに女乗せてたって聞いた」

「待てよ。あのチームはもう解散したんだろ? 古い話してんじゃねーよ」

「ばっかお前! あの人は伝説を作った人だぞ?」


 元総長? 駅前? 赤色のバイク?

 なんか心当たりのあるような、ないような会話が聞こえてくる。


 ミッドナイトエンジェルって何? チーム名?

 そういえば碧斗くんのチームの名前ってなんだっけ、きいてなかったなあ。



 改札を抜けたところで碧斗くんの姿を見つけた。

 昨日とは違っていつもの陰キャスタイル。

 相変わらず影が薄いからスルーしそうになる。

 なんでか、この姿の碧斗くんを見てもドキッとしてしまう。


「碧斗くん、おはよ」

「お、相川、おはよ」


 彼は低い声で流す。

 私は顔を近づけて小声で話しかける。


「昨日バイク乗せてくれてありがと。楽しかった」

「おう、相川さえよけりゃ、また行こうぜ」


 ”また”って言ってくれた。

 次もワンチャンあるんだとわかって、内心でガッツポーズをしてしまう。


「そういえば、碧斗くん、バイクあるのに電車通学なんだね」

「え」


 若干驚いた様子の碧斗くん。


「そりゃそうだよ。バイク通学なんて禁止されてるし」

「ふーん、ちゃんと校則(ルール)は守るんだ。さすが走り屋」


 私がからかうように言うと、碧斗くんは眼鏡の奥の目を細める。


「あのさ、俺にも社会生活っていうものはあるんだけど……」


 その一言に思わず笑ってしまう。


「ねえ、なんか、その姿で喋る時、ちょっとおとなしいよね」

「えっ、いや……だって普通にしてないと。みんな怖がるといけないし、話かけづらいと思うから」

「えー、でも今は私と二人だから別にいいんじゃない?」

「まあ、そうだけど」