漁港近くにバイクを停めて、海を見ながら二人で波止場を歩いた。


「はー、すっごい気持ちよかった」

「マジ? すげーな。普通怖がるもんだけど」

「そりゃ怖かったけど、碧斗くんの後ろ、安心したよ」

「そか、よかった」

「あのさ、碧斗くん」


 私は気になってたことを訊いてみる。


「碧斗くんって(ぞく)なの?」

「んー? 族っていうか、走り屋かな」

「走り屋……なんかカッコいいね」

「ほんとに思ってる?」

「え!? うん、うんうん。なんか自分の世界持ってるなーって感じで、いいと思う」


 必死にうなずく私を見て、碧斗くんは苦笑した。


「こうやって走ってると、嫌なこと全部忘れられるって言うんだけどさ。ぜんぜんそんなことないんだよなー。てか、そこまで単細胞じゃねえから俺たち」

「そうなの?」


 意外だった。

 昨日、五人でワイワイやってるところを見たら、みんな悩みとか無さそうだったけど。


「でも、私はスッキリしたよ! いろいろ悩んでたこと全部吹っ飛んだかも」

「マジ?」

「いや、ちょっと大げさに言ったみただけ」

「なんだよそれ」


 私たちは同時に微笑んだ。


「なあ、さっきの男って、隣のクラスの伊藤だよな」


 碧斗くんの口からその話題が出るとは思わなくって、私はすぐに返事ができなかった。


「別れたの?」

「……うん、この前フラれた」

「マジ?」

「え、そうだよ」

「相川が!? フラれる? そんなことあるのかよ……」


 ええ? なに?

 そんなこと言われたって、フラれたのは事実だし……しょうがないよ。

 なんか、気まずっ。


 あれ、待って、碧斗くん?


 私が伊藤くんと付き合ってること知ってたの? 人の恋愛とか、そんなことぜんぜん興味なさそうなのに。


「……じゃあ、狙っていいってこと、だよな」


 最後の方は波の音にかき消されて、よく聞こえなかった。


「なにー?」


 碧斗くんは私の質問には答えようとしなかった。


「てか、駅前とか人の多いところ、一人でブラブラすんなよ。無防備すぎ」

「え? そんなことないって、いつも駅前歩いてるよ?」

「なんかめちゃくちゃ目立ってたぞ。ナンパとかされたらどうすんだって思った」

「されないよ。されても行かないし」

「……ならよし」

「なに? よしって。あっ!」


 私は意地悪なことを思いつく。

 碧斗くんは「ん?」って感じで首をかしげている。


「真っ赤なバイクに乗ったヤンキーに、さっきナンパされたかなー」

「だ、誰がヤンキーだ! 俺は走り屋だっての!」

「あはは! じゃあナンパしたことは認めるの?」

「それは……!」


 いつもクールな碧斗くんがタジタジになっている姿に私もニヤニヤが止まらない。

 氷が解けたように笑みをこぼすところも、別の一面のようでとても素敵だった。