碧斗くんは制服だったけど、メガネをかけておらず髪をかき上げる”総長”スタイルだった。

 ひときわ目を引く大きな赤色のバイクにまたがっている。


「え、こいつ誰? 橙子の知り合い?」


 状況がわからない伊藤くんは、バイクの音でおどろいて後ずさりしている。

 そんな伊藤くんを無視して、私は碧斗くんに問いかける。


「碧斗くん! なにしてるの?」

「ちょっとコクドーを流そうかなって思ってさ、乗ってく?」


 言葉の意味がつかめない。


「え、バイク?」

「うん、後ろ」

「えー!」


 二人乗り? したことないよそんなの。

 てか碧斗くんバイク乗れるんだ……すごいなあ。


「乗って、後ろ」

「う、うん」


 碧斗くんに言われるがまま、私は彼のバイクの後ろに乗った。

 伊藤くんと彼の彼女は、あんぐりと口を開けたまま、私たちを見ている。


「しっかりつかまってろよ」


 碧斗くんはそう言ってアクセルをふかした。


 ロータリーに大きな排気音が響く。


 いつのまにか周囲にギャラリーも出来ていた。


「かっけー、あのバイク。誰?」

「いい音してんなー」


 よくわかんないけど、碧斗くんのバイクはかなり注目を集めてるみたい。

 私はおそるおそる碧斗くんの身体に腕を回した。

 大きな背中、伝わる振動、全てが初めてだった。

 二人を乗せたバイクがゆっくりと走り出す。


「怖い?」


 碧斗くんの問いかけに、首を横にふって訊き返した。


「どこまで行くの?」


 後ろからは聞こえにくいかと思って少し声を張る。


「テキトーに、じゃあ海でも行くかー」

「うん」


 碧斗くんの顔を覗き込むが、表情までは見えない。彼の匂いが風で流れてきて、鼻をくすぐった。



 町から離れた海沿いの道を、遠くまでひたすら走った。

 乗り始めは不安だったけど、だんだん感覚も慣れてくる。


 風を裂いて走る感覚。


 なんか、このままどこか遠くへ行きたいと思った。