深呼吸。

 的を見据えて立つ。

 腕をギリギリとひいて、解き放つ。


 矢は的の中心をやや外れ、”一の黒”にあたる。


 一の黒とは、的の中心の白い部分のまわり、一番内側の黒い円のことだ。


 惜しい。


 なんて思っちゃダメか。中心を狙ったんだから。

 でもあたった。ようやくあたるようになった。

 感覚が戻ってきた。

 弓をグッと握りしめる。



 ガヤガヤと声がして、弓道場に先輩たちが入ってくる。

 私は軽く挨拶だけをかわし、また練習に戻る。

 弓道は個人競技だ。

 練習中もみんな、口数は少ない。

 もちろん大会では団体戦もあるけど、みんな基本的に思い思いに練習してる。


 そこが好きなんだよね。


 ふとした時に思い出すのは、碧斗くんの顔。


 学校での”陰キャ”な碧斗くんと、外での”総長”な碧斗くん。


 どっちが好きだろう。


 ヤバい。どっちも好きだなあ。


 そんなことを考えながら放った矢は……。


 カツンとしょぼい音がして、的枠にはじかれた。