「お茶なら、俺がいれるから。絃葉ちゃんは座ってて」


背後から私を抱きしめる京極くんの手に、力がこもる。


「まだちゃんと、腕が治ってないんだから。絃葉ちゃんは無理しないで」

「うん、ごめん……」


京極くん、私のこと心配してくれてるんだね。


心配してくれるのは、すごく嬉しいけど。


京極くんには、好きな子がいるはずなのに。


どうして今、私のことをこんなふうに抱きしめてくれてるんだろう?


そんな疑問が、ふと頭の中を過ぎった。


やっぱり、彼が私のお世話係だからかな?


それしか、理由がないよね。


私は、後ろから自分の腰にまわされている京極くんの腕に、そっと手を添える。


そもそもは、あのとき私が陽莉ちゃんを助けて、右腕を骨折していなかったら……。


こうして今、京極くんが私のそばにいてくれることもなかったんだ。


だから……私の右腕の骨折が完治したら、京極くんとのこの関係も終わる。


そう考えたら、急に切ない気持ちになった。


京極くんの好きな子が、私だったら良かったのに……。


それからは、京極くんがお茶を淹れてくれて。

お茶をふたりで飲みながら、動画配信サービスで映画を観たりして。この日の夜は更けていった。


そして翌日のお昼前。手術が無事に成功したおばあちゃんの経過は良好とのことで、お母さんが家に帰ってきた。


お母さんとバトンタッチすると、京極くんは迎えに来た車に乗って、自分の家へと帰って行ったのだった。