それから約1時間後。


「京極くん。お風呂、お先でした」

「ううん。ひとりで大丈夫だった?」


入浴をすませた私が、首からさげたタオルで濡れた髪を拭きながらリビングに行くと、京極くんが駆け寄ってきた。


「ねえ。絃葉ちゃんの髪、俺が乾かしてあげるよ」

「え? でも、京極くんお風呂まだ……」

「いいから。ここ座って」


京極くんが、二人掛けソファの座面をたたく。

促されるまま、私は大人しく彼の隣に座った。


さっそくドライヤーのスイッチを入れた京極くんが、やさしく私の髪に触れる。


京極くん、当然のように髪を乾かしてくれるんだな。

左手だけだと上手く乾かせないから、有難い。


吹き出した温風が髪をなびかせ、京極くんの長い指がふわふわと軽く触れたりすいたりする。


しばらくの間、彼の手の感触や温風を心地よく感じていると、京極くんのスマホが鳴り出した。


「……ちょっと、ごめん。もしもし、姫華(ひめか)?」


彼の口から出た『姫華』という名前に、胸の鼓動が小さく跳ねる。