京極くんの部屋に、ふたりきり。


部屋には、時折問題集のページを捲る音と、シャーペンを走らせる音だけが響く。


私は今、少し前から苦手意識を持っている数学の応用問題に取り組んでいるのだけど。


緊張していたら、余計に問題の解き方が分からなくなってきた。


私は、向かいに座っている京極くんのほうにチラリと目をやる。


課題に取り組み始めてから、京極くんの手はほとんど止まることなく動いている。


京極くん、真剣な表情もかっこいいなあ。


「……あれ? どうしたの、絃葉ちゃん。シャーペンが止まってるじゃない」

「ええっと……」


かっこいい京極くんに見とれてた……なんて。いくら何でも、本人に言えない。


「もしかして、分からない問題があるの?」

「あっ、はい」


私が答えると、正面に座っていた京極くんが立ち上がり、私の左隣へと腰をおろす。


「どれ?」


間近でふわりと、清潔感に満ちた香りが揺れる。

京極くんが私の左隣から、数学の問題集を覗き込んできたのだ。


「あの、この問題なんだけど……」

「ああ、これは確かにちょっと難しいね」


彼と隣り合わせで問題集をのぞいていると、腕と腕がかすかに触れた。


「ご、ごめんなさいっ!」

「ううん?」

︎︎︎︎
課題に集中しなくちゃいけないのに。


息遣いまでが伝わる距離に、私の頭の中は正直もう勉強どころじゃない。