「ねえ。いま絃葉ちゃんのこと、“あんな子”って言ったよね?」


私のほうへ向かって歩いていた京極くんが足を止め、寺門さんのほうへと向き直る。


「え? ええっと、わたし……」


京極くんに何か言われるとは思っていなかったのか、焦った様子の寺門さん。


「絃葉ちゃんは、車に轢かれそうになった俺の妹のことを助けてくれた恩人なんだよ。“あんな子”とか、そんなふうに言わないでくれるか?」

「別に、わたしは宮崎さんを悪く言ったつもりじゃ……」

「それに、立場も何も。俺たちはみんな、同じ学校に通うクラスメイトだろ? クラスで手が不自由な子がいたら、助けるのは当たり前だろう。違う?」


いつもよりも大きな声で話す京極くんに、寺門さんたちは黙り込んでしまう。


「第一、お世話係は俺がやりたくてやってることだから。もし何か文句があるなら、絃葉ちゃんじゃなくて、これからは俺に言ってくれる? 絃葉ちゃん、行こう」

「あっ」


京極くんに素早く手を取られ、彼は私の左手を引いたまま教室を出て行く。