「ありがとう。君のお陰で助かったよ」


彼女が気づいて、追いかけてきてくれなかったら……。俺はもしかしたら、大変なことになっていたかもしれない。


「だけど、俺のせいでごめんね。電車……」

「いえいえ。それくらい大丈夫なので。とりあえず、あなたに……京極くんに、ちゃんと渡せて良かったです。それじゃあ、私はこれで失礼します」


彼女は笑顔で会釈すると、駅のホームを歩いていった。


俺は、歩いていく彼女の後ろ姿を見つめる。


さっきの彼女の花のような優しい笑顔が、ずっと頭から離れない。


あの子には、いつも俺の周りにやって来る女子とは違う何かを感じた。


あの子は誰だろう。


名前は、なんていうのだろうか。


制服のリボンの色が赤だったから、俺と同じ1年生だということしか分からない。


あの子、一度だけ『京極くん』って呼んでたから、俺のことを知ってくれてるんだな。


そう思うと、嬉しくて。


俺も、彼女のことをもっと知りたい。そして、もっと話してみたいと思った。


女子が苦手になりつつあった俺が、女子に興味をもつなんて。


こんなことは、久しぶりだった。