なんだろう?
まさかこの子も俺のファンで、後を追いかけてきた……とか?
ふと、嫌な予感が頭の中を過ぎる。
「えっと、何かな?」
「あのっ、これ……落としましたよ」
彼女の手には、見慣れた黒のパスケースがあった。中には、交通系のICカードが入っている。
「あっ。それ、俺の……」
俺がそう言うのと同時に、降りた電車のドアが閉まった。
電車が動き出し、駅のホームから出ていく。
「はぁ……良かったぁ〜っ」
すると彼女の表情が、ふっと和らいだ。
「あなたが歩きだしたとき、パスケースが落ちたのが見えて。ないと絶対に困るだろうなと思って、追いかけてきたんです」
そう、だったんだ。
わざわざ俺のために、走って追いかけてきてくれたのか。電車を1本逃してまで……。
めちゃくちゃ良い子じゃないか。
ついいつもの癖で、彼女が自分のファンなのかもって思ってしまった、バカな自分を殴ってやりたい。