「っ!」


ピタリと密着する体。


突然のことに、私は慌てて圭人から離れようとするが……。


「こうしてたほうが、絃葉が泣いてるって周りにバレないだろ?」

「でっ、でも。それじゃあ、私の涙で圭人のスーツが濡れちゃう」

「いいよ。そんなこと、気にすんな」


圭人が、私を抱きしめる腕に力をこめる。


「何があったか分かんねえけど。泣きたいときは、思いきり泣いたらいい」

「うっう……。けいと〜っ」


圭人の大きな胸が、私の涙を受け止めてくれる。


「つーか、つい勢いで絃葉を抱きしめてしまったけど。右腕は大丈夫か? 痛くない?」

「うん、大丈夫……」


柔らかく包み込んでくれる圭人に、私も寄り添う。


それから私は、圭人に抱きしめられたまま静かに泣いた。


私が泣いている間、ときどき圭人は私の背中をポンポンと優しく叩いてくれて。


それが今の私にはとても心地良くて、ボロボロになった心が癒されていくようだった。


「えっ。絃葉ちゃんと、萩原……嘘だろ……」


そして、私が圭人に抱きしめられているところを、私のことをバルコニーまで探しに来た蒼生くんに見られていたなんて。


このときの私は、知る由もなかった。