そもそも、あの京極財閥の御曹司である蒼生くんは、本当なら関わりなんて持てなかった人。


私が車に轢かれそうになった妹の陽莉ちゃんを助けて、腕を骨折したから。

陽莉ちゃんの兄として責任を感じた彼が、怪我が治るまでの間、私のそばにいてくれただけ。


蒼生くんは私のことを、“友達”だって言ってくれたけど……元々は、庶民の私が気軽にそばにいられるような相手じゃなかったんだ。


蒼生くんに許嫁がいると分かった今、彼のことが好きだと気づいたってもう遅いのに……。


私の頬には、つっと冷たいものが伝う。


「……っうう」


こんなところで、泣いたらいけないのに。


ついに堪えきれなくなった私の目からは、次から次へと涙が溢れ出てきて止まらない。


ねえ、蒼生くん。


姫華さんという許嫁がいるのなら、最初から私のお世話係になんてならないで欲しかった。


私に優しくしたり、意地悪するのは私だけだって、期待してしまうようなこと言わないで欲しかったよ……。


「っく、う……っ」


こんなに辛い思いをするくらいなら、蒼生くんのことを好きだなんて、ずっと気づかないままでいられれば良かった──。