『許嫁』


姫華さんの口から発せられたその言葉を聞いた瞬間、ピシャーンと雷に打たれたような衝撃が走った。


許嫁って、うそ……。


「えっと、絃葉ちゃん。食事の途中でごめんね。この子は……」

「初めまして。あおくんの幼なじみで、許嫁の西園寺(さいおんじ)姫華です」

「ちょっと、姫華!」


焦ったような蒼生くんを遮って、姫華さんは続ける。


「S女学院の高等部に通ってる2年生です。よろしくお願いします」


姫華さんは花がほころぶように微笑むと、私に向かってペコッと頭を下げた。


S女学院って、世間でも有名な超お嬢様学校だよね。

それに『西園寺』って、もしかしてあの西園寺財閥の……?


ドクッドクッと、心臓が嫌な音を立てる。


「そうだわ。おじ様とおば様にもご挨拶しなくっちゃ。それでは、失礼致しますね。ほら、あおくんも一緒に来てっ!」


姫華さんが蒼生くんの手を取り、二人は私の前から遠ざかっていく。


そんな二人の後ろ姿を、私はポカンとただ見つめることしかできない。