「……はぁ。緊張した……」
蒼生くんのお父さんが去った途端、一気に肩の荷がおりた。
「絃葉ちゃん。うちの父を相手に、何もあそこまで緊張する必要なんてないのに」
「だって。京極財閥の当主の方なんて、私が簡単にお会いできる方じゃないだろうから」
「そっか。でも、あまり身構えずにクラスメイトの父親として普通に接してくれて大丈夫だからね」
優しくそう言うと、蒼生くんは私の左肩にそっと手を置いた。
それから少ししてパーティーが始まり、みんなで乾杯。
「さて。挨拶も終わったことだし、何か食べようか」
いろんな人の挨拶が終わったあと、隣の蒼生くんが料理のお皿が載ったテーブルに目をやる。
「絃葉ちゃん、食べたいものはある? 俺が小皿に取り分けるから、遠慮なく言って?」
「ありがとう」
「やっぱり、フォークやスプーンで食べやすいものが良いかな?」
ここでも、私を気遣ってくれる蒼生くん。
パーティーは立食形式なのだけど、たくさんお料理があると迷っちゃうな。
「それじゃあ、ローストビーフとカルパッチョを」
「了解」
右手が使えない私は、お料理を取り分けたお皿を蒼生くんに持ってもらいながら、しばらく食事を楽しんでいると。
「あおくん!」
どこからかやって来た、同世代くらいのひとりの女の子が蒼生くんに声をかけた。
「あおくん、久しぶりだね」
その子は蒼生くんに近づくと、正面からギュッと抱きしめた。