正直怖くて。でもあたしに逃げる、なんて選択肢はなくて。

「はじめまして。くるみです」

戸惑いながらも、結様の世話係として仕える事になった。

「お待たせ致しました」

口に合うかどうか分からないけど手探りで1番最初はオムライスを作った。最悪捨てられるかもしれない。ビクビクしながら結様がそれを口に運ぶのを見届けて。そして尋ねた。

「どう…でしょうか」

「……」

すぐには答えてくれず、しばらく間を置いてから返事をしてくれた。

「……おいしい」

「…っ」

「また作って」

向けられる眼差しは普通の少年そのもので。

こんな怖い世界にいる人でも何かを‪”‬おいしい‪”‬と思ったりするんだな、と意外だった。

‪”‬おいしい‪”‬

たった4文字。

あたしは今怖い世界にいるんだ、と身を縮こませていた時に彼が放ったあの一言がどれだけあたしの世界を変えたか。

そして月日は経ち、気が付けば4年もの間。あたしは結様に仕えていた。

4年の間に結様は組長から若頭を任命された。

あたしの結様への呼び方は結様から若になった。

そしてあたしは結様へ、密かに恋心を向けていた。

若、と呼ぶ裏でずっとあたしは心の中で結、と呼んでいた。

そう呼べる…、ポジションにいつかなりたかったから。

世話係、としてじゃなくて。

結、と呼んでも誰にも咎められない…、そういうポジションに。


ずっとなりたかった​───────…