「はい。どうぞ」

「おねーちゃん、ありがと!」

「どういたしまして」

ボールを受け取った男の子は、「ままー! ぱぱー!」と、また去っていく。

その後ろ姿を見つめながら結くんが小さく零す。

「……素敵だな」

目尻に寄せたシワ。
驚く程に優しい笑顔。

また思ってしまった。

ヤクザの人でも、そんなふうに思うんだ…と。

結くんといると私の中のヤクザのイメージがいとも簡単にホロホロと崩れていく。

「子供、好きなんですか」

「あぁ、ちっこくて可愛い」

「そうでしたか」

「小桃は?」

「好きです」

「そうか。あぁいう素敵な家庭、一緒に築いていきたいな」

私は幸せな家族がどんなものかよく知らない。でもあなたとなら作っていけるのかもしれない、と行く手に希望がゆらゆらと揺らめいている気がしていた。

でも、思い出したようにほんのわずかな罪悪感が顔を出す。

「…はい」

私も、心からそう思ってます。

「俺たちの子供さ、絶対可愛いよな」

「…?」

「小桃、目ぱっちりしてるし。俺かっこいいし。どっち遺伝してもいい」

「…っ、男の子……かもしれませんよ?」

「だとしたら死ぬほどカッコイイんだろうな」

「……っ」

「おい、なんで泣いんてんだよ」

「ごめんなさっ……」