少し前にくるみさんに私の素性のことについて色々言われてしまった時、結くんは私にそう言ってくれた。

また(･･)は、今な気がした私はゆっくりと覚悟を決めるように深呼吸した末、口を開いた。

｢私…、生まれ育った家が好きじゃないんです｣

あそこで過ごした時間は確かに恵まれていたかもしれない。でも、なんの温かみもなかった。
ただ、素っ気ない環境に恵まれていただけ。

｢私の母…、私を産むのと引き換えにこの世を去ってしまって、だから父は私のことをいつも人殺しのような目で見るんです｣

母が生きていたら、家族3人。仲良くやれていたのだろうか、と何度も考えた。でも考える度にもう、父の隣には別の女の人が浮かんでしまう。

｢父はその後、再婚しました。私の義母になった方は私のことが好きじゃないみたいで、ますます居心地が悪くなって…｣

無意識に結くんの手に重ねた自分の手に、力がこもる。ずっと目を背けてきた私の中の嫌悪や弱さなだけあって、さらけ出すのが怖かった。

だから今も情けないほどに一言一句、声が震えてしまう。

｢だから…、家を出ました｣