夜は同じベッドで寝るけれど、ただ後ろから結くんに抱きしめられて、そのまま眠りにつく。

それ以上のことは1度も無いまま時は過ぎていった。

そしてあっという間に2週間が経ったその日の夜。部屋の明かりを消して布団の中で抱きしめられている時に結くんに言われた。

「小桃。明日デートに行こう」

「で、デートですか。でも仕事は…っ」

「明日は行かない」

「そう、なんですか」

「……」

ほんのわずかな沈黙の中。

ギュッ、と更に強く抱きしめられ、背中が結くんの胸板に押し付けられる。

「……嫌か」

「いや、じゃないです…っ、そうじゃなくて…、私、外に出てもいいんですか? 逃げるか心配なんじゃ……」

「逃げたいのか?」

「……」

ここで、逃げたいと言えば、逃がしてくれるのだろうか。すっかり馴染んでしまったこの左手で輝く指輪も外してよくなるのだろうか。

結くんの胸の鼓動を背中に感じながらあれこれ考える。

でも​───────…

お腹に回された結くんの手にそっと自分の手を重ねながら答えた。

「逃げません」

これは、なんの嘘も混じらない今の私の気持ち。

ーーじゃあいつかまた聞かせて。それでいい