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「あの……ほんとに私ここで寝るんでしょうか」

「あぁ、嫌か?」

「いえっ……」

22時。ダブルベッドのある寝室。

既にベッドに入っている結くんと、どうしたらいいか自分の所在が上手く掴めない私。

きっと嫌、と言ったら結くんは別々で寝よう、と言ってくれる。結くんがそういう人であることはこの1日でなんとなく分かった。

「結婚すんだから一緒に寝るのは当然だろ」

こっちが忘れた頃に‪”‬結婚‪”‬って言葉を出してくるからなんだか可愛く思えてくるんだ。
だってまるで子供がおもちゃを欲しがってるみたいなんだもん。

極悪非道。

ヤクザの若頭。

誰もが耳に挟めば真っ先に‪”‬怖い‪”‬という印象を持つだろう。でも実際は思いやりがあって、それでいてすごく優しい人。恐れてた自分が馬鹿みたいに思えてくるほどに。

なるべく揺らさないように、と結くんの隣にゆっくりと座った。

男女が同じベッドで寝る。

その意味を理解していない訳じゃなかった。

だけどこうして入ってしまった、ってことは私はもうすっかりこの人のことを信用してしまっているのかもしれない。

何かあってもいいや。

そんなふうに思っていた。

「おやすみなさい」

結くんがサイドテーブルの明かりを消したのでもう寝るのかと思って横になった。結くんの方を見るのはなんとなく恥ずかしかったので、背中を向けて。