「ごちそうさまでした……」

残すことなく全部食べ終えて、箸を重ねて置く。そこで初めて対面に彼が座っていたことに気付いた。

気だるげに頬ずえをついて、じっと私を見ている。

いつからそこにいたんだろう。

ずっとソファの方にいると思ってた。

それくらい私、夢中で食べていたんだ…。

目尻に浮かぶ涙を拭うと唐突に彼が口を開いた。

「…なんで泣いてた」

「ごめんなさい…、すごく…美味しくて……」

彼にとって美味しいから涙が出る、というものは到底理解が出来ないことなのだろう。

私が答えても不思議そうに顔を顰めるだけだった。

あれ…なんだろう。これ。

ふいに左手薬指に違和感を覚えた。

「ゆび……わ?」

薄い水色のダイヤが輝く指輪。

きっとここで目が覚めた時からずっとついていたものなのに、今今気付いた。

私のものじゃない…

外そうと力を込めてみるも外れそうになかった。

「あの……これ…」

「指輪だ」

当然かのごとくそう答える彼。

「えー、と、……」

それは見たら分かる…

聞きたいことはいっぱいあるのに、言葉が上手く出てこない。

「その指輪は内部に毒針が仕込まれている。逃げようとしたり、外そうとしたりすれば即作動して即死だ」