「おい、起きろ」

やがて、落とされたその声は、‪”‬俺が絶対だ‪”‬と、脳に直接命令を受けているような、絶対的な言葉のようで。

本能的に従わなきゃ、と思うけどでもそれ以上に恐怖心が邪魔をして目を開けることが出来ないでいた。

「おい」

なかなか目を開けない私に苛立ったのか、ついにペチペチ、と頬を叩き始めた。その衝撃と急な接触に驚き、目を開けてしまう。

「…っ」

目の前にはスーツ姿の男の人が1人。

私を見下ろしていた。

鋭く、尖った瞳と怪訝そうにひそめられた眉。

そしてただ首に掛けただけの状態のネクタイが、ダラン、と地面に伸びていて。

ボタンが数個外れたワイシャツから覗く鎖骨や素肌はこれでもかと言うほどに色気を帯びていた。

圧倒的なカリスマ性。

街で見かけたら誰もが2度見してしまう程。

男の人だけど、‪”‬美しい‪”‬という表現が1番正しいんじゃないか、と思ってしまった。

おかげで今私が置かれているこの状況のことなんかすっかり忘れてつい目が釘付けになってしまう。

物色するかのように私の顔を見下ろす彼。

興味深そうな瞳なのに、目にハイライトは一切ない。彼が今この瞬間何を考えているかなんて到底分かりっこなかった。

「どうしますか、若」

彼の後ろからまた別の男がやって来て。頭を下げた。その光景に彼らの中での序列が一瞬で分かった。