仏壇には髪を下ろした綺麗な女性が桜の木を背景にニッコリと微笑んでいる写真が立て掛けられている。目元は特にどことなく小桃に似ている気がした。

「娘さんを俺に下さい」

静かに目をつぶり、手を合わせる。

‪”‬必ず幸せにします‪”‬

それだけ心の中で誓って森山家を出ようと、靴を履いていた時。

「あの……」

1人の使用人が控えめに俺に話しかけて来た。

「はい?」

「小桃お嬢様……、ご結婚されるんですね。おめでとうございます」

ほっとしたように目を細める女性。

丁寧に深々とお辞儀をされた。

「ありがとうございます」

思わず面食らった。この家の人間は父親、義母だけでなく使用人共々小桃に酷い扱いをしてきたんじゃなかろうか、と勝手に解釈していたからだ。

「ずっと、心配していたんです」

彼女は時々言葉をつまらせながら教えてくれた。

「かつてあの森山の一人娘……というだけで、お家柄の良い方などから小桃お嬢様への縁談話は絶えませんでした。でも…、病気のことを話せば、縁談は決まって破談になるばかりで……」