でも、もし最期までベッドに寝たきりになったとしても、結婚式の日のことを考えれば幸せな気持ちになれる。何度でも思い出して。振り返って。幸せになれる。そんな日にしたい。

それが俺がたどり着いた結論だった。

「ありがとうございます」

涙でびちゃびちゃになった手を自分の衣服で拭いながら小桃がふわりと目尻を下げる。最初の頃は俺にガチガチだったのに今ではいろんな表情を見せてくれるようになった。

それがすごく嬉しかった。

***

式場は確保してある。小桃の体調が回復するのを祈るしか今俺に出来ることはなかった。

「どうぞ、お入り下さい」

そしてこの日。

俺は1人。森山家へと訪れていた。

敷地面積は広く、石畳を進むと中庭には大きな松の木が植わっていたり、池に数匹の鯉が泳いでいたり、と昔ながらの造りをしている立派な御屋敷だった。

今では様々な事業に手を出している、と聞いた。小桃の生まれ育った家。そしてどうしてか絶縁状態となっている森山家。

どうしようかずっと頭を悩ませていたが結婚するのなら両親への挨拶はしたい。

そう思ったのだ。