「俺の心臓でも……ダメか?」

「結くんは、どうなるんですか?」

「俺なんかどうだっていい。ヤクザの世界に入った時から死なんてとっくに覚悟してる。小桃が生きてくれることの方が​────」

「私も同じ気持ちです。結くんが死ぬなんて、耐えられません」

「……」

2人の間に重く、沈黙が落ちる。

結くんは2人の未来を考えてくれている。

でも私はそれに応えることが出来ない。

ただただ、申し訳なさが募っていくばかり。

‪”‬ごめんなさい‪”‬

そう言おうとしたけれど先にこの沈黙を破ったのは結くんだった。

「くそっ……、なんで小桃なんだよ…」

拳を握りしめて。心の内を必死に抑えるかのように顔を歪めている。そんな苦しそうな結くんの表情を見るのは初めてだった。

「俺の心臓やるから……っ、だから…、ずっと俺の隣いろよ…………っ、頼むから…」

だから……

それじゃ、結くんはどうなるんですか……

さらに涙腺が刺激されて涙が頬を伝う。

私も。結くんも。同じ。

涙を拭うことなんて頭になくて。頬がびちゃびちゃだった。

「……無茶…、言わないでください」

「…うっ、……」

結くんのすすり泣く声だけが、病室に響いて。

胸が押しつぶされる思いだった。

「ごめんなさい……」

その日。
結局私は、ただ謝ることしか出来なかった。


「俺の心臓、いつでもやるからな?」

帰り際。
諦めの悪い結くんは泣き腫らした目でそう言ってくれた。

「その言葉だけで十分です。ありがとうございます」

病室を出ていく結くんを、私は笑顔で見送った。