校外合宿が終わって帰宅。

 早月くんも、わたしより少し遅れて帰ってきた。



「美奈ちゃん、合宿お疲れ。楽しかった?」



 あんな場面を見てしまった、だなんて絶対にバレちゃダメ。

 わたしは明るい声を出した。



「うん! 山登りはしんどかったけど、部屋でトランプしてね、女の子たちと仲良くなれたよ」

「そらよかったなぁ。俺も楽しかったわぁ」



 本当は聞いてみたい。

 好きな人がいるのかどうか。

 でも……聞いてどうするの?

 これからもこの家で暮らすのに、気まずくなんてなりたくないな。

 お母さんが、キッチンから声をかけてきた。



「二人とも、お帰り! アイスあるよ。着替えていらっしゃい」



 お母さんに言われた通り、部屋着に着替えてリビングのいつもの椅子に座った。

 出されたアイスは、バニラとチョコの二種類だった。

 早月くんが言った。



「美奈ちゃんが選び。俺、どっちでもええで」

「うーん、どうしようかなぁ」



 両方捨てがたい。シンプルなバニラも、濃いチョコも。



「美奈ちゃん、めっちゃ悩むやん」

「あっ、ごめんね? 決められなくて……」

「ほな俺がチョコにしよか?」

「それでいいよ」



 早月くんは、チョコのアイスのフタをとって、スプーンですくって食べ始めた。わたしもそうした。

 バニラも美味しい。けど、やっぱりチョコもよかったかなぁって思っていると。



「美奈ちゃん、一口交換せぇへん? はい、あーん」



 早月くんが、チョコのアイスが乗ったスプーンを差し出してきた。



「えっ、ええっ?」

「ほら、溶けるで。あーん」

「んっ……」



 ええい、勢いだ。ぱくり。



「今度は美奈ちゃんちょーだい」

「はい……」



 あたしがバニラのアイスをあげると、早月くんは満面の笑顔。

 これって、これって、間接キスだよね?

 早月くん、わかってる? わかってない……?

 そんなわたしたちの様子を見て、お母さんが言った。



「二人とも、すっかり小さい頃に戻ったねぇ。お菓子分け合いっこしてたんだよ」

「うん、俺も覚えとうよ、叔母さん。美奈ちゃん優しかったなぁ……いっつも多めにくれた」

「そうだったんだ……?」



 だったら、早月くんにとっては小さい頃の延長ってことなのかな?

 わたしのこと、ただのいとことしか思ってないから、こんなことができちゃうのかな?

 それは、他の誰よりも、わたしが早月くんと仲が良いということなのかもしれないけれど。

 どこか、寂しい気持ちもあったんだ。