早月くんの部屋は、わたしの部屋と同じくらいの広さ。

 けれど、大きな本棚がある分、窮屈に感じた。

 そして、部屋に入ったはいいけれど、どこに座れば……?

 早月くんは先にベッドに腰かけているし。



「美奈ちゃん。隣、ええよ」

「う、うん」



 そっと早月くんの隣に座る。あまり間を開けすぎても変だし、かといってくっつくのなんかもっと変だし。

 結果的に、わたしたちの距離は拳三つ分くらいになった。

 早月くんが言った。



「ほんまに可愛くなったなぁ。びっくりした」

「そ、そんなことないよ?」



 わたしの見た目なんて、中身と同じで平凡そのものなんだけどな。



「俺のこと……あまり記憶ないんやね」

「そうなんだ。ごめんね?」

「ええよ、ええよ。最後に会ったん五歳の時って聞いとうし。しゃあないで」



 そして、早月くんは大きく息を吐いた後、こんな提案をした。



「なあ、中学では、いとこっていうことは内緒にしとかへん? 鈴木っていうありふれた苗字やし、言わんかったらバレへんと思うねん」

「うん、そうだね」



 早月くんがどうしてそう言ったのかは聞かなかった。

 けど、内緒にしておくのはわたしも賛成。

 絶対、絶対、早月くんは目立つだろうし……。

 そんな彼と親せきであることが知られたら、わたしまで注目されちゃうよ。

 わたしは早月くんに言った。



「じゃあ、登校はバラバラね?」

「うん。俺、はよ登校して本読みたいから、先行くわ」



 トントン、と扉がノックされた。お母さんだった。

 二人っきりで息が詰まっていたから、いいタイミングだ。



「美奈、ここにいたの。お風呂入りなさい。早月くんはその後でいい?」

「はい、俺は最後で構わないです」

「じゃあ、わたし、入ってくるね」



 いつもなら、お湯の中でのんびりしているんだけど、お母さんにお風呂長いよって何度か言われているし、早月くんを待たせるのも悪いし。

 わたしはちょっと身体がほぐれたかな、くらいでお風呂場を出た。

 それから、自分の部屋に戻って、クローゼットにかけてあった中学校の制服をまじまじと見た。

 紺色のブレザーにプリーツスカート。赤いリボン。男子は赤いネクタイだったかな。

 制服はこんなに可愛いけど、指定のリュックはやけに大きいしぶっちゃけダサい。

 通学路で見かけた先輩たちは、このリュックにキーホルダーや缶バッヂをつけていたから、わたしもそのうちそうしてもいいかも。

 そんなことを考えながら、ベッドに入った。

 これから、隣の部屋には、早月くんがいるんだ……。

 どうしてもそれを意識しながら眠った。