花火大会、屋台巡りのはじまり!

 早月くんが言ってたベビーカステラは凄い行列。

 でも、わたしも食べたかったから、思い切って並んだ。



「美奈ちゃん、サイズどうしよう? ようさん食べるやろうし、一番大きいのにしとく?」

「そうだね、ようさん、食べるし」



 お祭りの雰囲気で浮かれてきたのか、そんな冗談も言える余裕が出てきた。

 ベビーカステラを口に放り込みながら、ぐるぐると見ていく。

 フランクフルトとお好み焼きも買って、ベンチを探して座った。



「えらい人やなぁ。場所取り早くせんと」

「……偉い人?」

「ああ、えらい、っていうのも、たくさんっていう意味」

「関西弁って奥が深いなぁ」



 花火の打ち上げまであと一時間。

 ジュースを買って、一番よく見える広場まできた。

 早月くんはレジャーシートを持ってきてくれていたんだけど、子供用? っていうくらい小さい。

 自然と肩を寄せあうような形で座ることになってしまった。



「美奈ちゃん、順番でトイレ行っとかへん? 帰りの電車すぐに乗られへんやろうし」

「そうだね。わたし、先に行ってくるよ」


 そんなことまで考えてくれているなんて、早月くんは本当にしっかりしている。

 交代でトイレに行って、どんどん暮れていく空を見上げた。

 待っている間は、読書感想文の話をした。

 早月くんは、本当に課題図書を全部読むつもりみたいで、全部買ったのだとか。

 そして、アナウンスが流れ、花火が始まった。



「わぁっ……!」



 夜空を彩るまばゆい光。黄色、オレンジ、赤、ピンク、青……。

 まるで万華鏡のようにくるくる花が咲いて、ひと時も目が離せない。

 ハートの形の花火もあって、すごく可愛かった。

 そうだ、写真。わたしはスマホで何枚か花火を写した。けれど、ブレてうまく撮れなかった。



「美奈ちゃん、記念撮影しようなぁ」

「うん!」



 花火を背景に、二人で撮った。今度はわたし、自然に笑えてる。花火のおかげかな。

 終了のアナウンスが流れて、わたしたちはさっとレジャーシートを片付けた。早く帰らないと。

 なんとか電車に乗れたものの、もう、ぎゅうぎゅう詰めで……!

 わたしは壁の方に背中をつけた。早月くんが、わたしに向かい合って、わたしの肩越しに壁に両手をついた。



「早月くん……?」

「美奈ちゃんが潰れんよう、守ったる。俺の腰につかまっとき」

「う、うん」



 こわごわと早月くんの腰に手を回した。早月くんが腕を伸ばしている分、距離が開いているけど、それでも普段より物凄く近い。

 お互いの心臓の音が聞こえてきそうなくらいだよ……!

 やっとの思いで駅について、帰り道も手を繋いだ。

 もう、人はまばらだし、はぐれる心配なんてないっていうのに。



「美奈ちゃん……今日さ、俺は楽しかったけど、美奈ちゃんは?」

「わたしも、わたしもすっごく楽しかったよ!」

「よかったぁ。よっしゃ、もうすぐ家や。俺、美奈ちゃんのこと守れたかな?」

「うん。ありがとう、早月くん」



 初デートは、こうして終わった。