早月くんの人気はぐんぐん上昇中。

 上級生まで早月くんを見に二組にやってくるらしい。

 早月くんの周りには、常に人がいて。

 とても学校で話しかけられる雰囲気ではなくなってしまった。

 けど、家に帰ったら……。



「美奈ちゃん、お帰り!」

「うん、ただいま」



 早月くんは、自分の部屋よりリビングにいることが多かった。

 それで、ソファに座って一緒に飲み物を飲む。

 わたしもコーヒーに挑戦してみた。全然ダメだった。

 形だけでも大人になりたいのにな。

 それから、六月三十日。わたしの誕生日がきた。

 お父さんとお母さんに、テーブルが回る中華料理屋さんに連れて行ってもらった。

 四人いるから、ちょこっとずつ、色んな種類の中華を食べた。

 お母さんが言った。



「美奈、最後はやっぱりアレでしょ?」

「うん、杏仁豆腐!」



 十三歳になったけど、甘いものが好きでたまらないわたしは、まだまだお子さまだ。



「うーん、口の中でとろんととろける食感、上品な甘さ……」

「そんなに美味しいん? 一口ちょうだいやぁ」



 そう言って早月くんがあんぐり口を開けてきた。

 アイスの時もしたし……うん。これはそんなに大した意味じゃない。うんうん。

 そう自分に言い聞かせた。



「はい……」



 わたしは杏仁豆腐をスプーンですくって、早月くんの口に入れてあげた。



「んー! 確かに美味しいなぁ!」

「でしょう?」



 そして、家に帰ってから。

 早月くんの誕生日の時、「お返しするで」と言われていたから、どうしても期待している自分がいた。

 わたしがリビングのソファに腰掛けていると、早月くんが紙袋を持ってきた。



「はいこれ。改めて、誕生日おめでとう」

「ありがとう。開けていい?」

「ええよ」



 紙袋に入っていたのは、包装紙に包まれた小さな四角い箱。

 包装紙を取ると、出てきたのは、パステルカラーのユニコーン柄の缶だった。

 そのフタを開けてみると……。



「わぁっ、クッキー?」

「せやで。美奈ちゃんには甘いもんが一番やと思って」



 箱の中は九つに仕切られていて、それぞれ凝った形のクッキーが宝石のように詰められていた。



「すっごく可愛い! 大事に食べるね!」

「よかったぁ、喜んでもらえたぁ」



 クッキーは、食べたらなくなっちゃうけど……。

 缶はずっと残しておける。

 わたしは決めた。

 大切な物を入れておくために取っておこう!

 早月くんが、どういう気持ちでこのプレゼントを選んでくれたのかはわからない。

 だけど、わたしの「嬉しい」気持ちは大事にしようと思った。