王太子だけは簡単に終わらせたくはない。
 義姉上を傷つけた罪は、他の者たちのような処罰では生ぬるい!!

 生き恥曝して一生をもがき苦しみ、されど決して死ねない。死ぬことは許されない。長く苦しんで生きろ。
 そのための下準備は既に整えてある。
 後はここぞと言う時期にそれらを暴露すればいいだけだ。
 それだけで王太子の転落は確定している。

 



 
 
「馬鹿な……こんなことが……」

「何がこんな事なのでしょうか?殿下。これらは殿下が決裁した物に相違ございません」

「いや……だが……」

「文書の偽造、公金の横領、どれを取っても許されることではありません!!」 

 ドサッ!
 王太子の机に証拠となる書類を積み上げていく。

「こんなものは出鱈目だ!!!」

 王太子は無実を訴えるがそれは無駄だ。
 なにせ、書類には王太子の直筆のサイン入り。既に筆跡鑑定も終えている。


 まあ、一部は僕が作成したものだ。それでも全てじゃない。ここにある証拠書類には王太子の学生時代の物も含まれている。

「僕がこれらを何の確証もないままお見せしていると思いますか?今ある物は一部に過ぎません。学生時代からの横領と公文書偽造が今まで何故明るみにでなかった理由を理解されておりますか?」

 そう、婚約者への贈り物とした費用は全てあの女へのプレゼントとして消えている。立派な横領だ。それに加えて虚偽の申告をしていたのだからな。

「国王陛下はよほど殿下が大事とみえます。真実を知った大臣を始め官僚たちから責められても殿下のしでかしを庇っていらっしゃいます。もっともそのせいで国の信頼は無に帰しました。婚約者のいる身でありながら義務を放棄し、その挙句に冤罪と毒杯です。他国の王族ならびに高官はその事実を知っております。他国の人間の口から国民に真実が語られ始めているんです」

「そ、それは……!」

 王太子の表情はみるみると青ざめていき絶望していく。
 ようやく気付いたようだ。遅すぎるけど。
 義姉上を貶めた貴族共の処分は済んだ。事実は王家からではなく他国の高官たちの口から徐々に噂が市井に流れている状態だ。王太子の行為を密かに隠蔽していた国王。あの父親にしてこの息子ありだな。ろくでもない。

「今までの罪が全て露見したのです。大人しく沙汰を待つべきでは?王族としての矜持があるのならば、の話ですが。僕の言いたいことは分かりますね?」

 王太子の目が絶望に染まっていく。
 ははっ。義姉上に似たような事を言った記憶が蘇ってきたのかもしれないな。もっとも、僕は彼と違って丁寧かつ優しく諭してあげている。下品に声を荒げた目の前の男と違ってね。

 死を予感したのだろう。
 王太子が崩れるように床に膝をついた。

 
 
 最愛の妻、側近、友人、全てに裏切られた気分はどうだ?
 お前を守ってくれる最大の存在。国王ですら求心力が落ちすぎてどうにもならない。国の信頼を取り戻す意味でも彼らの死は免れないだろう。
 
 泣き叫ぶ王太子を見つめながら僕は嗤った。
 






 
 
 王太子妃の事件を切っ掛けに多くの者が処罰された。
 貴族、聖職者、平民。
 身分の上下なく等しく罰を与えられたのだ。

 王太子妃と不貞関係にあった側近達とその家族は処刑された。
 王太子妃の後見をしていた神殿側も権威が失墜し、少しでも関わった者は教皇から破門を言い渡された。
 そして、王太子妃の結婚を後押しした貴族達は二階級降格の上財産の大半を没収された。伯爵クラスなら辛うじて貴族でいられたが、それ以下は平民に堕とされた。
 今回の一件には平民も加担している。公爵令嬢に対しての不敬罪。それも、虚偽の発言を他の?貴族や王族にしていた事が明らかになった。平民の学生からしたら庶民の王太子妃の味方をしたかっただけかもしれない。だからといって嘘はよくない。彼らの嘘が義姉上の死に少なからず繋がっているのは明白だからな。本人達は処刑、その家族は平民ということで御咎めはなかった。ただし、周囲から絶縁され針の筵の日々だろう。中には一家心中した処もある。


 王太子が身分違いの恋人を盲目的に愛した結果がこれだ。
 この悲惨な結末により、ただでさえ求心力の落ちていた王家では対応できなかった。聖女側であった大公家も今では落ちぶれている。貴族の大半は力を削がれた。


 唯一の被害者であるぺーゼロット公爵家の元で国の信頼回復は行われる事となった。