「わ、私達はどうすれば……」

「公爵家にあなた方をどうにかできる訳がないじゃないですか。ただ、民衆は元王太子妃だった元聖女の姿など二度と見たくはないでしょう。自分の意見が違うだけで“悪人”と難癖つけて決めてかかって来る愚者を視界に入れるのは実に不愉快極まりないですしね」

「…………わかりました」


 
 その二日後、ルーチェ・サンタは戒律の厳しい(死ぬまで出てこれない)修道院に護送されていった。

 表向きは――

 実際は裏社会の臓器売買に売り払ったのが真相だ。
 
 僕としては別にそこまでの事は望んでいなかったし、彼らがそこまでするとは思わなかった。が、意外なことに元聖女を売り渡す判断をしたのは神殿の上層部。

 まさか自分を聖女に推薦した神官長や溺愛する高位の神官たちに売られたなど夢にも思わないだろう。本来なら神殿側も処罰の対象だ。それを奴らはルーチェ・サンタひとりに全ての罪を擦り付けた。いや、この場合は背負わせたと言った方がいいか。神殿側も聖女の称号を与えた女がここまでやるとは想像できなかった筈だ。たとえ、閨教育を施していたとしてもだ。

 神に仕える身だとしても所詮は人間。
 我が身が一番可愛い。
 実に人間らしい一面だ。
 これが神至上主義達にも有効なのだから笑える。
 神も自分の信者の姿を見てさぞかしガッカリしている事だろう。

 

 視界に入れるな――――とは言ったが、僕は「殺せ」など言ってない。
 
 表向きの理由通りに修道院に監禁しておいても良かったし、この国と無関係の国に行かせて二度と戻ってこないという選択も出来た筈だ。

 だが、神殿側はそう捉えなかった。

 もしも修道院にルーチェを知っている女性が入ったら?
 もしも国外に出しても偶然会ってしまったら?

 ありとあらゆる「IF」を想像して怯えたのだ。
 一生をビクビクして生きるのなら対象であるルーチェ・サンタをこの世から消してしまおう、という結果に繋がった。

 連中はこれ以上神殿の悪行が世間に知られるのを恐れた。

 あの後、神官に手渡した資料が恐怖を煽ったのかもしれない。
 神殿は救済処置として孤児院を経営する習わしだ。にも拘らず、その孤児達を食い物にしている連中の多いこと。年端のいかない子供達を性の捌け口にしているのが神に仕える者だとは嘆かわしい。こんなことが世間にバレたら今の比ではない。神殿は一巻の終わりだ。

 流石は稀代の悪女を育成した神殿。
 すでに末期状態だと思った僕の感覚はおかしくないだろう。

 ご丁寧にルーチェはドナー登録をしている。

 恐らく上手い事言い含めて登録させたのだろう。
 よく考えている。
 これで裏で臓器売買されていても分からない。
 なにせ、その道のプロだ。
 ドナー登録さえしていれば何とでも言い訳ができる寸法だった。
 随分、こなれている。
 もしかすると今回が初めてじゃないのかもしれない。

 ルーチェ・サンタの臓器は使える物は隈なく取り出される手筈になっていた。

 あんなビッチの臓器を中に入れられる相手が気の毒だったので、裏で取引をした。股の緩い性女の臓器は全て裏社会の住人に使用するように。

 
 そんなこんなで気付けば半年が経っていた。

 粗方片付けたとは言ってもメインディッシュが終わっていない。

 最後に残ったのは王太子。
 僕が最も復讐をしたい男だ。

 彼はあの事件以降も王太子位のままだ。

 そんなの許されないだろう?