何なの?!あの男!!
 臭いって!
 この私に向かって臭いとは何よ!!!

 し、しかもバケツの水を頭から被せてくるなんて聞いてないわ!!ダメ押しとばかりに水魔法使うなんて反則でしょ!?
 頭から足先までずぶ濡れ状態。仕方なく、屋敷に戻って来たけど……。
 今日のために朝からカールした髪も念入りに化粧を施した顔も全部台無し!

 でも強かった。

 あのジョバンニを一撃で倒すなんて並の人間に出来る事じゃないわ。
 言動そのものが粗野なところが多いジョバンニと違って荒事なんて到底できなさそうに見えたのに……。意外だった。人は見かけによらないとはこの事ね。


 良いじゃない。

 実力は申し分ない。
 その上、家柄だって良い。

 欲しい――

 顔だけ良い男とは訳が違う。
 容姿だけなら婚約者の王子や傍に侍っている男達の方が数段上だけど、彼は実力を兼ね備えている。あの異国の雰囲気を漂わせた男を自分の物に出来たらそれだけで私の価値も上がるという物だわ。想像するだけで楽しい。

 そうと決まったら明日に備えて置かなくっちゃ。今日は偶々荷物検査で気が高ぶっていただけよ。ちょっとした行き違い。男女の間ではよくある事だもの。寧ろ、これで私を認識したんだから逆に良かったのかもしれなわ。ここから更にアピールしていけば堕ちるのも時間の問題よね。


 気を取り直した私は次の日に意気揚々と登校した。




「校則違反です。昨日の今日ですよ?何を聞いていたんですか?その頭は飾りとでも言う気じゃないでしょうね?」


 その言葉と共にヨハンを始めとする他の付き人達が悉くぶん殴られて崩れ落ち、私は昨日と同じように水浸しにされた。

 そして昨日の宣言通り、各家に苦情の手紙が出された。





 

「お前は一体何をしている!!」

 お父様の怒声が屋敷中に響く。

「学園の生徒会から苦情など前代未聞だ!!」

 そんなに怒らなくたって。

「公爵家の倅から嫌味交じりの手紙を受け取った儂の気持ちが分かるか!?」

 分かんない。だって、私はお父様じゃないもの。
 
「我が大公家の恥だ!!!何のためにお前を娘として迎え入れたと思っているんだ!!!」

 王子と結婚さすためでしょ?そんなこと言われなくたって分かってるわよ。煩いな。

「聞いているのか!!」

「もちろんです」

 うそ、半分も聞いてない。だって殆どお父様の愚痴だもの。はいはい言っとけば問題ないわ。
 その後もお父様からの小言は延々と続いた。