「……え?」

「聞こえなかったのなら、もう一度言いましょう。学園に化粧道具の持ち込みは厳禁。また、華美なアクセサリー類も厳禁なんです。ご理解いただけたのならコチラに言われた物を置いてください。ああ、これらの校則違反の品々は後日、家の方に警告文と共にお返しいたしますのでご安心ください」

「なっ?!」

「校則では化粧も違反に値します。こちらで()()()()を落としてから学園に入ってください」

「はぁ!!?」

 羞恥心からか、それとも怒りからなのかは分からないが顔を紅潮させた大公女は徐々に目を吊り上げだした。怒っているようだ。まあ、彼女がどれだけ怒り狂おうが関係ない。僕は校則に則って対応しているだけだ。それが嫌なら学園に来るなって話だしね。

「ふざけるな!ルーチェ様は大公家の御令嬢だ!!」

 短気なのは変わらない。
 よくその性格で騎士団団長を目指そうと思ってたよね。

「大公家の人間だろうが、侯爵家の人間だろうが、規則には従ってもらいます」

「き、貴様!!!なんだその態度は!!!」

 こめかみに青筋を立て激情にかられるまま腰に帯びていた長剣を抜き放つと僕に向かって振り下ろしてきた。本当に気の短い男だ。学園内での私闘禁止の規則を知らないのか?ああ、恐らく知らないのだろうな。自分達に都合よく考えているのかもしれない。前みたいに。どれ、相手になってあげますか。

ズゴォオオン!!!

「うわっ?!」

ジョバンニに蹴りつけた先にちょうどヨハンが居たので彼も巻き込まれる形で壁に激突していた。ジョバンニに至っては完全に白目剥いて気絶しているけどヨハンは頭を押さえながら何とか意識を保っていた。インドア派なのに気絶しないんだ。ちょっと見直しちゃったよ。

「な、なにするの?!いきなり!!」

「ええ、いきなり斬りかかられたので対応させていただきました」

「ぼ、暴力はダメよ!!」

 あははは!何言ってんだ?この女。てめぇが言うな!!

「暴力ではありません。『正当防衛』です」

「な、な、なにを言ってるの?」

「お付きの者達の躾はしっかりなさっておいてください。ああ、それと、ルーチェ・グラバー大公女様は厚化粧の他に香水まで使用されているようですね。それも結構臭いです。つけすぎなのでは?あれではせっかくの香水がダメになりますよ。幾ら体臭が気になるからと言って大量に付ければいい訳ではありません」
 
「な、なななっ?!なんですって~~~~!!?」

 真っ赤になった顔をプルプルと震えさせる大公女だが僕は構わず言葉を続ける。さすがにこれ以上時間を取られるのは面倒だし、そろそろ授業が始まってしまう。
 
「それにしても驚きました。品のない女性が大公家にいらっしゃるなんて。教育係は何をしていたんでしょうね。大公家の令嬢だからと甘い教育でも受けたんですか?それは教育係の怠慢でしょう。途中から大公女になったのですから他の姉妹達の何百倍も努力しなければならないと言うのに」
 
「~~~~~っ!!!」

「これも規則ですので、失礼」

 僕は水の入ったバケツを大公女の頭に被せた。
 
「きゃあぁぁぁぁっ!!!」

 そして更に追い打ちをかけるように彼女の全身に向けて水魔法を使って雨のように降らせた。
 
「これで少しはマシになりましたね」

「ななな………なんでっ……」

 余りの事態に唖然として地面にへたり込んでしまっている。そんな彼女を見下ろす形で告げた。
 
「申し上げた通り、僕は生徒会長です。規則を守る義務があります。あなたにも規則に従ってもらいます」
 
「く……ぅ……こ、こんなことをしてただで済むと思っているの?!」
 
「勿論、許されます。違反しているのはあなた方ですから。登校初日ということを踏まえて今回は特別に保護者への通達はしませんが、次はありませんので悪しからず。では」

 踵を返し他の生徒会役員と共に教室へと歩き出す。後ろからは大公女が何やら喚いていたが気にしない。勝手に喚いてろ!