あれがミゲル・ぺーゼロット公爵子息……。

 いいじゃない!
 長身と言う訳じゃないけどチビって訳でもないわ。平均の身長なのに何故か長身に見える!不思議だわ。あ!そうか!彼って姿勢が良いのよ!!だからなんだわ!!背筋がピンと伸びてて、それでいて肩の力は入ってない。あれは自然にそうなっているんだわ!見てくれも悪くない。この国では珍しい黒髪っていうのも良いわ。綺麗なエメラルドグリーンの目。異国情緒っていうのかしら?そんな雰囲気を醸し出していて、でもそれを気取らない自然体な雰囲気もある!顔つきだって悪くないし。何より表情ね!あんな柔らかい笑顔で笑いかけられたらどんな女もイチコロだわ!

「ルーチェ嬢、どうかしたのか?」

 私が彼を観察していたら婚約者のエンリケ王子に話しかけられて我に返った。不機嫌そうに眉を寄せている王子を見て思わず苦笑してしまう。面倒な男だわ。自分以外の男に見惚れていると絶妙なタイミングで話しかけてくるのよね。普段は驚くほど鈍感な男なのに。妙な処で鋭いと言うか。流石は()()()()()()()()()()()といったところかしら?恋愛ごとに関しては鋭いのかもしれないわね。普段は人の話なんて全く聞いていないようなのに。

「何でもありませんわ」

 私は素っ気なく言って、エンリケ王子から視線を外す。彼は不満げな様子だけど知ったこっちゃないわ。お父様の命令で婚約しているだけだもの。結婚したら自由にしていいと言われているし。王子は美形だけどハッキリ言って彼って顔だけが取り柄なのよね。他は平均並みだし。話していても超つまんない。王子と話す位ならジョヴァンニやヨハンと会話した方がずっとマシよ。二人の難点は王子と違って気を遣わないといけないって事だけよね。


「ルーチェ嬢、どうやら校門で荷物検査が行われているようです」

「荷物検査?」

 え?
 何それ?

「はい、何でも最近規則を破る生徒が多くなって来たとかで……生徒会主導で定期的に検査が行われているらしく今日はその日にあたるそうです」

 マジ?!
 そんなものがあるなんて聞いてないわよ!!!


「なんだそれは!!大公家の御令嬢に対して無礼だろう!!!」

 吠えたのは護衛のジョヴァンニだった。
 爽やかな美少年のジョヴァンニはその見た目に反して気が短い上に激情家。侯爵家の子息だけれど騎士団団長を父親に持つせいか言動がやや荒っぽいのが欠点よね。見てくれは良いのに。

「そういう問題ではありません。決められている以上は我々も参加しなければ」

「ヨハン!!」

「貴男は何かと怒りっぽいのですから、もう少し落ち着いてください。ただ荷物をチェックされるだけではありませんか」

「それが不敬だと言うんだ!」

「……学園の規則に添わない方が非常識の誹りを受けます」

「クソッ!!」

 ヨハンに言い負かされて苦虫を嚙み潰したような表情になるジョバンニに内心溜息がでる。ジョバンニの性格はヨハンも知っている筈なんだからもっと上手く言いくるめて欲しいものだわ。フォローする身にもなってよね。