正直、僕としては義姉上と公爵家に火の粉が降りかかってこなければ彼らがどうなろうと知った事では無い。権力抗争でも何でも好きにやってくれて構わない。その結果、彼らがどれほどの不幸に陥ろうが興味もない。僕達の知らないところで野垂れ死んでくれと言いたいが、そうも言っていられないのが現実だ。

 前回と違い過ぎる展開に僕自身が付いていけてない。

 ここ数年、あれ?と思う事はあった。それでもここまで驚いたことは無い。

「編入してくる大公女……。現大公の()()となっているけど、これ本当かな?」

「報告書にも記載されているでしょう?本物よ。大公の数いる娘の一人のようね。市井の女性が産んだとあるから今まで放置されていたんでしょう」

 放置ねぇ。
 嘗ての生では大公家は聖女の後ろ盾の一つだった。
 だからこそ、王太子との婚姻に際して反対意見を述べなかったと思っていた。それがどうだろう。本当は実の娘だったとしたら反対も何もない。賛成するはずだ。ただ、どうしても解せない。実子なら前も「娘」として引き取られていても不思議ではない。神殿があの女を『聖女』認定したからか?

「それにしても大公も思い切った事をしたものだわ。王家の『(紫の目)』を持たない娘を実子と認めるなんて」

 僕の疑問は義姉上によって解消された。
 なんでも現大公は正妻との間には男児が恵まれなかった。愛人が数人男児を産んでいたが大公の望んだ『紫の目』を持つ者は現れなかったようだ。ならばと、孫に期待したものの、大勢いる孫の中にも『紫の目』は現れない。

「大公家ってそんなに『紫の目』に固執してるんだね」

「固執しているのは当主である大公だけよ。他の者はそこまでではないわ。まあ、多少のこだわりはあるでしょうけどね。現大公が異常なだけ。自分だって完璧な『紫の目』ではないのに」

「え?そうなの?」

「ええ、現大公は薄い紫の目をしているの。もっとも、ここ数十年は領地に引き籠っていたみたいだから知っている人は少ないでしょうね」

「義姉上は会った事があるの?」

「いいえ。ご本人にはないわね。でも、お母様が若い頃に何度かお会いしたことがあるみたい」

「義母上が……?」
 
 まあ、社交界で嫌でもあうか。

「何でも自分の息子を婿にどうかとか言われたらしいわ」

「え!?」

「まあ、お母様はキッパリ断ったようだけど、結構しつこかったみたい。社交界でも未だに覚えている人がいるくらいだもの。相当粘られたんでしょう」

「そんなに息子の嫁にしたかったの?」

「それはそうよ。大公は『紫の目』に異常に執着しているもの。お母様と息子が結婚して子供が生まれたらその子は『紫の目』を持って誕生すると踏んでいたんでしょうね。実際、お母様の娘である私は『紫の目』を持っていることだし」

 義姉は困ったように笑った。