「どんな思惑があるのかは別として、神殿を味方に付けるには良い方法だわ」

「外道な方法ですよ?」

「こういった外道な方法の方が裏切る確率は減るわ。特に『信仰()の名のもとに』なんて言っている連中には覿面じゃないかしら?寧ろ、こういった人が弱っている時に近づいてお布施を買わせている連中なのよ?自分達の行いが返って来たからといって非難なんてできないでしょう。あら?そう考えると神殿と大公家は相思相愛じゃないかしら!」

 嫌な相思相愛だ。
 クスクスと楽しそうに嗤う義姉が羨ましい。僕は嗤えない。前の時に神官長は息子を切り捨てている。多分、神殿側にメリットがあるから大公家に息子を差し出したんじゃないかと疑ってしまう。

 それに、報告書には裏情報まで一緒に記載されていた。

 大公家の工作員が多数神殿に入り込んでいるとか。
 そして神官長もそれを知って上手く活用しているようだ。
 つまり、お互いが持ちつ持たれつの関係なのだろう。となると、神官長は火事がどうして起こったのか正確に把握している可能性は高い。いや、それどころか黒幕が大公家だと分かっていて行動しているのではないか?
 報告書には下手人は捕まっていない。深夜ということで目撃情報すらない。大公家は細心の注意を払って行っているはず。犯人はこれから先も見つからないだろう。もし、見つかるとしても死体としてだろう。

「神官長は分からないけれど、御子息は妹君を溺愛なさっているようね。大公女に大層感謝しているみたい」
 
「そうなんですか?」
 
「ええ。父君の命令とはいえ、自主的に大公女に尽き従っているようだわ。これで大公家は未来の神官長を手に入れ神官長は自身の地位を盤石のものにしたというところかしら?」

 ああ、そういうことか。納得したと同時にゾッとした。あの男は自分の息子さえも利用して地位を固めようとしているのだ。罠を仕掛けたのは大公家。それでも得をしたのは神官長も同じだ。自分の子供達を犠牲にしてでも神官長の地位を守りたいらしい。

「大公家は神殿への寄付を増やしたようですね」

 報告書に書かれている額は相当だ。
 
「口止め料も含まれているのでしょう」

「俗物の神官長で大公もラッキーでしたね」

「本当だわ。でも、気を付けないとね。弱みを握られたままでいる大公家ではないわ。もし少しでもおかしな真似をするなら――」

 義姉上は右手をそっと頬に当てるとニコッと微笑んだ。